along
グラスに注がれたビールと一緒に、前菜が運ばれてきた。
とりあえず乾杯して(「メリークリスマス」とは言わなかった)箸を伸ばす。
やはりクリスマスを意識してか白くて丸い謎の食べ物は、真ん中が星形に繰り抜かれ、ピンク色のつぶつぶが埋め込まれている。
「あ、長芋に明太子か」
直も少し驚いた顔で、でもおいしそうにもぐもぐ咀嚼していた。
小さな魚の照り焼き、丸い鰻巻き、一切れずつ数種類盛られたお刺身。
直はきれいな手つきで次々と口に運ぶ。
駒を扱っているときもそうだけど、直の迷いのない手の動きが、とても好きだと思った。
熱の上がる頬は、飲み慣れない日本酒のせいにする。
あまり得意ではないのに、飲みやすいものだからどんどん飲めてしまい、事実酔ってもいた。
「真織さんのところの社長、最近は何か拾ってきていないの?」
鰻は白焼きか鰻丼か選べたので、私も直も鰻丼にした。
鰻のふっくらとした身は、へー! 鰻ってこんな味だったんだ! と初めて知る食べ物みたいにおいしかった。
「拾うどころか逆に、頼子ちゃんと私が電子辞書と睨み合いしながら必死に作ったブラジルの雇用契約書を捨てかけて、頼子ちゃんに一日口きいてもらえてなかった。あの人、そのうち頼子ちゃんに捨てられると思う」
「でも捨てられたら、自分で自分を拾ってきそうだよね」
そう言いながら爆笑する直は、少し酔っぱらってるのか、いつもよりトロンと甘やかだった。
これだけたくさんご馳走になったのに、肝吸いが一番好きだと言っても、
「何でもいいよ。真織さんが満足してくれたなら」
と笑う。
お腹いっぱいの胃をやさしく癒す肝吸いと直の笑顔に、私もうっとりと目を細めた。