along
タクシーを待たせたままなので、名残惜しくてもマンションに入った。
いつもの直の視線が酔った肌にはいつも以上に沁み込む。
私はその余韻をまとったまま部屋に入って、喉乾いたなーと言いながらもそのままソファーにドカッと座り込んだ。
「中身……なんだろう?」
直がくれたのは白い卵形の小さな望遠鏡のようなものだった。
隣のハンドルでクルクル回るようになっている。
全体が星や天使の羽や宝石みたいなビーズで装飾されていて、蛍光灯の光を受けてキラキラ光る。
「かわいい……でも、これ何?」
卵にはレンズのようなものがついているので覗いてみると、中は一層キラキラしていて、小さな星や色とりどりに輝く砂がゆっくりと、そして次々と変化していく。
「万華鏡かあ」
万華鏡と言うと、和柄の筒状で、中のビーズがザラザラ回るイメージしかなかったので、それは衝撃的だった。
「すごい……トローンってなってる」
中に液体が入っているらしく、私の記憶にあったカタッカタッというぎこちない変化ではなく、溶け合うようにトロリふわーんと変化する。
どの一点を切り取っても幻想的できれいで、目が離せずに、クルクルクルクルとハンドルを回し続けた。
きっと一生懸命選んでくれたのだろう。
詳しくない私でも、その辺に売っているものじゃないことくらいは想像がつく。
私があげた手袋なんて陳腐に思えるくらい素敵なプレゼントだった。
直に向けた行き場のない気持ちが満腹の胃の奥に溜まって、身体が重かった。
普段通りベッドで眠るのを、この重みが邪魔をする。
『省エネ』なんて言ってたのに、私の中には何の役にも立たない熱が溢れている。
そうして燻った熱は発電所のタービンではなく、ひたすらに万華鏡をクルクル回す。
踏み込むのを躊躇ってしまうのは、それなりに理由がある。
付き合いたいという直の言葉は嘘ではなかった。
でも、このプレゼントからも直の愛情は感じるのに、それがどの程度のものなのかわからないのだ。
身体を要求されるなら話はもっとずっと単純だったのに。
いずれにしても、直が求めている「恋人」と私がなりたい「恋人」との間には大きな乖離がある。
どんなに細かく過去を思い起こしても、一度も直から好きだとは言われた記憶は見つからない。
万華鏡を回すほど想いは増すばかりで、私はとうとう眠れないままソファーでイブの夜を過ごした。