along
「お姉さん、あなたおいくつ?」
通常であれば躊躇われる質問も、同性であり先輩であればおやつのついでに聞けるらしい。
「二十八です」
出し惜しんだとて意味のないことなので、ここも景気よく答えた。
「ご結婚は?」
「してません」
「お付き合いしてる方はいるの?」
他のふたりにはわからない程度にそっと、私はモンブランの上にため息を落とした。
さっきここに入った時には彼氏がいたのだが、まさにこの店で別れたばかりなのだ。
「……いません」
今最も答えにくい質問に、私は投げやりな気持ちで答えた。
年収を聞かれたほうが言いやすかったくらい。
セルフサービスの店なので店員さんはずっとカウンターの中にいて、お会計をしたりコーヒーを提供したりしている。
武と来たときと変わらない光景が、変わってしまった私の環境を一層際立たせるようだった。
武のすべてを知っていたかと聞かれればそうではないけど、彼という人間をよく知っているつもりではいた。
同い年にしては幼く感じることもあったし、少し常識が足りないところもあったけど、それは若い時であれば許容される範囲内だと深く気にしていなかった。
実際、この九年の間に私も武も成長したと思うし、社会人として落ち着いた関係を築けていると信じていた。
しかし、それは錯覚だったのだ。
「よく考えたら俺たちってお互いしか知らないじゃない? だから結婚する前にもっと他を知った方がいいと思うんだ」
これまで会話の中に自然と出てきた”結婚”。
式は親族だけでやりたい。
部屋はもう一部屋多いところに引っ越そう。
顔合わせの日取りはどのタイミングがいいか。
それらの相談事と同じような調子で、武はそんなことを口にした。
「“他”って?」
「何人かマオ以外と付き合ってみて、マオの良さを再確認した上で結婚した方がありがたみが増すと思うんだ」
「“ありがたみ”?」
「マオも俺以外と付き合ってみたらいいよ」
「“俺以外”?」
常識人の私としては合いの手じみた復唱をすることしかできない。
こんな冗談を突然言う人だっただろうかといぶかしく思ったものの、渾身のネタを真っ向から否定するのもかわいそうなので、無理矢理笑って話を合わせた。