along
第9回神宮寺リゾート杯将棋王大会二次予選

先手▲ 有坂行直七段 VS 後手△ 馬場敏男九段

▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同歩 ▲同飛 △2三歩打 ▲2八飛

直はあのきれいな手でパチン、パチンとこれを指したのだ。
何十万回、何百万回。
一手一手魂を込めて。
そうして今も、また何十年後にも、直の残した棋譜で将棋を学ぶ人たちがいる。

私にあんな駒音が出せるはずない。
だってあれは直の人生の音なのだから。

狭くてマニアックな世界だけど著名人だし、私よりずっと直の価値を理解できる人はいくらでもいる。
だって、直と一緒に大盤解説していた女流棋士は、打てば響く反応で一緒に納得したり驚いたりしていたじゃない。

勝負の世界に身を置いているなら、もっとお互いを高め合っていける関係の方が、きっといい。
直だってそのうちそんな風に思うようになるだろう。
それで、やっぱり別の人が自分には合ってると気づく日が来る。

「私じゃ、無理だよ……」

人生のやり直しは簡単じゃない。
直は生涯将棋を指して生きていく。
直にとって将棋は趣味じゃない。
ただの仕事でもない。

私が知らなかったのは、有坂行直そのものだ。




< 51 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop