along
「ふう~、ちょうど回収業者の人来てて渡してきたよー」
タイミングよく社長とブラジルが戻ってきて、湿っぽい空気が一掃された。
すると私の手にある色紙を覗き込んだブラジルが、ジェスチャーで「何て書いてあるのか?」と聞いてくる。
私と頼子ちゃんは低い英語力を競うように頭を突き合わせた。
「Let's go straight……together……?」
頼子ちゃんが自信なさそうに私に確認する。
私は直がこの色紙に込めた意味を考えて、辞書を開いた。
「straight」を調べてみると「Go straight along this street.(この道に沿って真っ直ぐ行ってください)」という例文が載っていた。
「along」と「together」は基本的には同じような意味だけど、ただ一緒にいるだけの「together」と違って「along」には「~に沿って、(一団としてまとまって)一緒に」という意味合いが含まれるという。
「Come straight along ……with me. かな。通じる?」
直の目指す高みは直線ではないだろうし、私は同じ道を進めるわけでもない。
だけど心だけは真っ直ぐ上を目指して。
共に寄り添って。
だから意味はきっと「真っ直ぐ俺に寄り添って来て」。
ブラジルはいつもの笑顔で何度も頷いてくれた。
胸のつかえが下りたら空腹を感じて、汁気のなくなったカップ春雨はあっという間になくなった。
「お昼ご飯食べ足りないから、帰ろうかな」
ボソッとつぶやいたら、おじちゃんが手で追い払う素振りをする。
「帰れ帰れ。午後の検品と納品処理は俺が代わる。なあ、ブラジル」
わかっているのかいないのか、ブラジルもニコニコ笑った。
「他に急ぎの仕事入ったら、私やっておきますよ」
頼子ちゃんは私の手から春雨の空カップを取り去り、バッグを渡してくれる。
「頼子ちゃん、おじちゃん、ブラジル、みんなありがとう」
「指導対局な!」
「わかった。頼んでみる」
ビニール袋に色紙を入れ、事務所のドアを開けると、冷え込んだ空気が頬を打つ。
けれど、その冷え込みのせいかいつもより空気は澄んでいて、むしろ心地よかった。
「えー、俺はまだいいよって言ってないのに……」
社長の言葉は、閉まったドアの向こう側から聞こえた。