along
すっかりミルクが混ざり切ったふた口目のコーヒーを口に含んだ次の瞬間、吹き出すのを堪えた。
「マオ~、久しぶり! ちょうど連絡しようかなって思ってたんだ」
直との記憶の片隅をかすめた人物が、突然視界に乱入してきた。
理性が勝ってなんとか堪えたせいで、コーヒーの一部は胃ではなく鼻の奥に入ってしまった。
最後に会ったときそうだったように、武の発言や行動は私の思考と動きを狂わせる。
武は私が誰かと待ち合わせしているなんて思ってもいないようで、自分のコーヒーを持って当然のように向かい側に座った。
「それでさ、やっぱりマオと結婚するのがいいかなって思って、そろそろ迎えに行くつもりだった。ここで会えてよかったよ」
あまりに自然だったから、直とのアレコレは全部妄想で、別れたあの日のまま時間は経っていないのか、と一瞬錯覚を起こしそうになった。
けれど、目の前にあるのがアイスカフェラテではなくホットコーヒーだったことで正気を保つ。
「武、別の人と付き合うって言ってなかったっけ?」
「付き合ってみたよ。三人くらい。でもみんな長所短所いろいろあってしっくり来なくて。総合力ではマオが一番だった」
あれから半年で三人……。
私はたった一人ともうまく付き合えてないのにすごいな、とむしろ感心する気持ちで聞いていた。
人生初の総合一位。
それなのに、なぜこんなに屈辱的な気持ちになるのだろう。
「だからマオ、結婚しよう」
時間だけ半年戻して、同じ場所で同じ言葉を言われたのなら、私は笑顔で承諾していたことだろう。
今頃はすでに名字も変わっていたかもしれない。
タイミングとは本当に恐ろしい。
「私は武とは結婚しない。他に好きな人がいるの」
「は? ああ、他の男とお試しで付き合えって俺が言ったからでしょ? もういいよ、それ」
最後に会ったとき同様、武に私の気持ちは届かなかった。
「違う! 本当に他に好きな人がいるの。武とヨリを戻すつもりない!」
強い口調で言い切ると、武は心から弱り切ったように眉を下げる。
私はこの表情に弱くて、結果折れることが多かった。
もちろん、それは昔の話で、今は何も感じない。
「そんなこと言われても困るよ。あれから見聞を広めて、やっぱりマオが一番好きだなって思ったのに」
誰よりも一番君が好きだよ、と言われているのに、なぜだかちっとも嬉しくない。