along
直はパチン、パチンときれいな音をさせながら駒を並べていく。
私の方にはずらりと全部。自分の方には王将だけ。
「現状、これでも十分に勝てる」
目が合った瞬間、バンッて大きな音がしたかと思った。
将棋盤を挟んで向き合った直は、それくらい強い存在感をぶつけてきた。
存在感が武器になるということを、私は身をもって実感した。
私たちの間にはきっちり将棋盤ひとつ分の距離があって、立派な盤が校長先生のように睨みを効かせているにも関わらず、私はまるで壁に押しつけられているかのように身動きができない。
髪の毛一本一本、肌という肌、すべてに直の気配がまとわりついて逃げ場がない。
「……ちょっと、初心者相手にそんな圧力掛けないでよ」
「ドキドキする?」
「ドキドキするよ!」
直はいつものようにニコリと笑ったけど圧力は緩めず、そのままスーッと将棋盤と駒台を脇に移動させる。
「じゃあ、そのままドキドキしてて」
そう言って、ひと息に距離を詰めてきた。
反射的に後ずさってもすぐに逃げ場はなくなって、本当に壁に押しつけられる。
「お、王手とか言わないでよ」
直は思い切り眉間に皺を寄せた。
「そんな恥ずかしいこと言わないよ」
「耳掻き一本の相手なんて楽勝だったでしょう?」
「どこが? 将棋以外は普通以下だよ、俺」
「だってじっくり追い詰めて直の作戦勝ちじゃない。さすがプロ棋士だね」
「下心がないとは言わないけど、作戦なんて立てたことない。真織の指し手なんて読んでる余裕全然ないもん」
「だけどね━━━━━」
「あのね、いい加減黙ってくれない?」
「無理! だってドキドキするんだもん!」
嬉しそうに笑う直に見惚れた一瞬を逃さず、直の指先が私の唇に触れた。
駒に触れるときにはあんなに迷いないのに、今は恐々と、まるでココアの薄い膜をそっと撫でるような手つきだった。
「もう、俺が触っても大丈夫?」
私は直のその手を取って、自分の頬へしっかりと当てた。
「……どうぞ。存分に」
私の方にはずらりと全部。自分の方には王将だけ。
「現状、これでも十分に勝てる」
目が合った瞬間、バンッて大きな音がしたかと思った。
将棋盤を挟んで向き合った直は、それくらい強い存在感をぶつけてきた。
存在感が武器になるということを、私は身をもって実感した。
私たちの間にはきっちり将棋盤ひとつ分の距離があって、立派な盤が校長先生のように睨みを効かせているにも関わらず、私はまるで壁に押しつけられているかのように身動きができない。
髪の毛一本一本、肌という肌、すべてに直の気配がまとわりついて逃げ場がない。
「……ちょっと、初心者相手にそんな圧力掛けないでよ」
「ドキドキする?」
「ドキドキするよ!」
直はいつものようにニコリと笑ったけど圧力は緩めず、そのままスーッと将棋盤と駒台を脇に移動させる。
「じゃあ、そのままドキドキしてて」
そう言って、ひと息に距離を詰めてきた。
反射的に後ずさってもすぐに逃げ場はなくなって、本当に壁に押しつけられる。
「お、王手とか言わないでよ」
直は思い切り眉間に皺を寄せた。
「そんな恥ずかしいこと言わないよ」
「耳掻き一本の相手なんて楽勝だったでしょう?」
「どこが? 将棋以外は普通以下だよ、俺」
「だってじっくり追い詰めて直の作戦勝ちじゃない。さすがプロ棋士だね」
「下心がないとは言わないけど、作戦なんて立てたことない。真織の指し手なんて読んでる余裕全然ないもん」
「だけどね━━━━━」
「あのね、いい加減黙ってくれない?」
「無理! だってドキドキするんだもん!」
嬉しそうに笑う直に見惚れた一瞬を逃さず、直の指先が私の唇に触れた。
駒に触れるときにはあんなに迷いないのに、今は恐々と、まるでココアの薄い膜をそっと撫でるような手つきだった。
「もう、俺が触っても大丈夫?」
私は直のその手を取って、自分の頬へしっかりと当てた。
「……どうぞ。存分に」