along
直の髪の毛は、思っていたよりもやわらかかった。
頬を寄せられるたび、ほんの少しだけ髭の感触がする。
そうして繰り返されるキスは、ただの熱だった。

直にまつわるひとつひとつが、空っぽだった身体に一度に入り込んできて、シーツの肌触りも、枕のやわらかさも、何もわからなかった。
この唇は、明日には腫れてしまっていると思う。

人肌という概念が吹き飛ぶ熱さに触れたあとでは、暖房の効いた暖かい空気でさえ涼しく感じて、深く布団をかぶる。

「ごめん。明日対局なのに疲れさせちゃった」

「いや、むしろよく眠れそう」

「ちゃんと将棋できるかな?」

「大丈夫。骨折したって、腕一本動けば指せるんだから」

「でも……」

「大丈夫、」

直はやさしく笑って目の色合いを深め、そのまままぶたを下ろす。

「大丈夫。勝てばいいんだから……」

使い込まれた枕に、声の半分は吸い込まれていった。
私はシーツの皺と皺の間に顔をうずめる。
そして寝息が規則的なものに変わったのを見届けると、巻きついた直の腕をほどいて、そっと寝返りを打った。

身体を休めるためには、帰ってあげた方がいいとわかっていた。
だけど、寒さを言い訳にして、ぐずぐずとここにいる。

「ごめん。頑張ってね」

左手だけ直の右手に触れて、祈るように眠りについた。





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