リング
2017/02/05

「まじで!?」

冬の寒さに身をぶるぶると震わせていた1人の男、真琴(まこと)に朗報が届く。中学時代からの友人新人と高校時代の友人薊の結婚式への招待。いつくっつくのか賭けていたほどの2人の結婚が現実になって真琴は素直は喜びの気持ちでいっぱいだった。

「すげぇな!あ、そういや薊、お前ちゃんと料理してんのか〜?」
「は!?そんぐらいしてるし!馬鹿にしないでよね」
「いやぁ、高校時代のあの料理見てると不安だなぁ〜」
「そっ、それはなし!もう忘れたって言ってたじゃんその話!」
「へへへ、そんなん嘘だよ」
「酷っ!あ、しんくん起きてきた!しんくーん、遅いよぉ…………ちょっとまってね、いましんくんに変わるね」
「あ、おう」
「もしもし?」
「もしもし?お前起きんの遅いな」
「昨日飲みすぎたわ」
「ったくどんだけ飲んだんだよ。お前酒弱いんじゃなかったっけ?」
「そーなんだよ!だから全然記憶が…頭いてぇ…」
「相変わらず馬鹿だな」
「あ?馬鹿じゃねぇよ。お前こそそろそろ彼女の1人くらい作ったらどうなんだよ」
「その話はやめろ」
「うわー怒ってるー怖ーい」
新人は棒読みで言った。
「お前なぁ…式にはどこらへんまで呼ぶつもりなんだ?」
「取り敢えず親戚と会社の仕事仲間と友達かな…」
「ふーん…じゃあ結構多いんじゃねぇの?」
「まぁ…100人くらい?」
「100人!?すげぇ…」
「お前は友達だけで100人いくだろ」
「でも100人か…会費大丈夫なの?」
「んー、まぁ貯めてきた金があるからな」
「そっか…じゃ、結婚式楽しみにしてるよ」
「おう。じゃあな」

真琴が電話を切った。連絡先のアプリの中の佑月薫が目に入った。そしてふと、真琴は新人の会社の同僚に中学時代の友人薫がいたことを思い出した。世界は狭いなぁと軽い気持ちで薫に電話をかけてみた。

「…あ、もしもし薫?真琴、高橋真琴だよ」
「…あぁ真琴?久しぶりー!どうしたの?」
「いまさ、新人と薊の結婚式への招待状届いてさ。さっき新人たちと電話してたんだよ」
「……そうなんだ」
「薫も行くんだろ?その式」
「多分…行くかな」
「え、なんか予定入ってんのか?俺言っとこうか?」
「ううん大丈夫。行くよ、行くと思う」
「そっか。俺新人と薊が結婚するって聞いたときキタコレ思ってさ!」

興奮する真琴の声にゆっくりと薫の口数は減っていく。

「あれ?薫、大丈夫?」
「…ぁ、大丈夫、うん。なんかちょっと、熱でててね」
「そっか、なんか悪いときに電話しちゃったな。ごめんごめん」
「ううん大丈夫」
「じゃ、ゆっくり寝て調子整えろよ」
「うん、気をつける」
「じゃあな、元気でな」
「うん…バイバイ」

その声は言い終わることなく途中で切られた。薫は机の上に置かれた招待状を見つめる。美しい花で縁が飾ってある。
思い出すは女の笑顔。
思い出すは男の手触り。
気持ち悪い。
気持ち悪いの。
私のものの筈なのに。
許せない。

「結婚、おめでとう」
「ありがとう薫さん!薫さんも早くいい人見つけてね」

何見てんのよ。
何で何も言わないのよ。
答えてよ。
新人…?

許せないけど、新人はきっと。
嗚呼幸せそうな新人。私だけのものよ。私だけに許される権利なのだから。あの女は犯罪者。人の幸せを奪った犯罪者。必ずこの手で取り返してやるから。待っててね新人。お前を何もかも失うどん底に陥れてやる。
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