リング
2017/03/11

「お帰り、しんくん。これ手紙」
「ん」

結婚から一年。薊はなんとなく新人との距離を感じていた。家に帰ってくるのは常に自分より後でそのまま疲れたようにすぐ寝てしまう。
交わす言葉も少なくなった。
普通の夫婦なら今頃そうなってもまだ家は明るいままだ。

「子供__。子供欲しいな、しんくん」

そこに新人の姿は既になかった。
高校で同じクラスとなり、とても仲良くなった。友達以上恋人未満のような関係を続けていると、同じ大学に進むことが分かったときに告白をされた。そして入社して少ししてから突然別れを告げられた。しかしその1年後、彼はまた戻ってきてくれた。それからずっと新人は自分の服を脱がせようとはしなかった。薊は不安でたまらなかった。

「しんくん…ちょっといい…?」
「ん?どうしたの?」
「しんくんさ……なんで私の所に戻ってきてくれたの?」

着替えていた新人の手が止まる。薊は震える手をこすり合わせた。新人は落ち着いた目で薊の方をみた。

「俺は薊が必要なんだって、分かったんだ」
「でも、それじゃ別れなくても」
「離れてみないと分からないこともあるだろ?」
「……しんくん…ねぇしんくん…」

何度も何度もこすり合わせる。

「私に何隠してるの…?」
「…心配するなよ。俺は薊のためにやってるんだぜ?」
「何を…?何をしてるの!?」

薊は寄ってきた新人の服を掴む。新人は未だ落ち着きを保つ。

「秘密だよ」

そう言って新人は薊にキスをした。一瞬のことだった。キスさえ恋しい。この唇がもし、もし私だけのじゃなかったら…

「しんくんもう一回」

薊は虚ろな目でキスを請う。

「ダメだよ。一回一回を大切にしたいから」
「しんくん…私…信じてるから」
「…当たり前だろ?俺もいつでもお前の味方だよ」
「…信じてるから」

揺るぎない意志がそこにある、彼と紡いだ絡み合う糸。
ちぎりたくない。
繋いでおきたい。
彼女は今その星のような糸を手繰り寄せているのだ。
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