今宵の月のように
「あ、そうだ」

そう思っていたら、彼が思い出したと言うように言った。

「お前、名前は何だ?」

「あっ…」

そうだ、まだ名前を聞いていなかった。

「高緑こより、です…」

自分の名前を言った私に、
「こよりか、ずいぶんと変わった名前だな」

彼は珍しいと言うように言い返した。

「よく言われます…」

初対面の人に自分の名前を言うと、だいたい返ってくるのがさっきの“変わった名前”である。

もう何回も言われたからすっかりなれてしまった。

「どんな字を書くの?」

そう聞いてきた彼に、
「ひらがなで、そのまんま…」

私は答えた。

「なるほど」

彼は納得したと言うように、首を縦に振ってうなずいた。
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