今宵の月のように
「行ってきます」

キッチンで洗い物をしている宮本さんに声をかけたら、
「行ってらっしゃい」

洗い物をしながらだけど、彼は返事をしてくれた。

たったこれだけのやりとりなのに、空虚感に包まれていた胸が埋まったのは何故だろう?

ドアを開けて外に出ると、あんなにも会社に行きたくないと思っていた気持ちがいつの間にかなくなっていることに気づいた。

憎まれ口をたたきながらも会話をして、美味しい朝ご飯を食べて、見送ってくれたからなのだろうか?

…よくわからないけれど、会社へ行きたくないと言う憂うつ感はもう消えている。

「頑張って仕事をしますか」

ギラギラと照りつけている夏の太陽を肌で感じながら、会社へと足を向かわせた。
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