今宵の月のように
 * * *

私が生まれ育った町は、山と海に囲まれた小さな田舎町だった。

家の周りに常にあるのは田んぼだけで、隣の家だって何メートルか先に1件あると言うような環境だった。

町にある唯一のコンビニも車で30分と言う距離のところにあった。

学校も山のうえにあると言うような状況だ。

何でこんな辺鄙で不憫なところで生活しなきゃいけないんだろう…。

成長するにつれて、私はそんなことを思うようになった。

若い人たちはこんな町での生活が嫌だからと言う理由で、大学進学や就職を理由に次々と出て行っている。

私も彼らと同い年になったら、早くこの町から出て行こうと思うようになっていた。

当然のことながら、両親には反対された。

「わざわざここから出て行かなくても学校には通えるんだし、就職をすればいいじゃないの」

両親は私がこの町から出て行くのを許さないと言うように、何度も言っていた。
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