今宵の月のように
「それにしても」

宮本さんが私に歩み寄ってきた。

「な、何ですか?」

宮本さんは私の髪に手を伸ばすと、
「ずいぶんと、キレイになったんじゃないのか?」
と、声をかけてきた。

「あ…わかりますか?

実は会社を辞めた後にエステサロンに行って、キレイにしてもらったんです」

やった、気づいてくれた!

「ああ、だからか」

宮本さんはそう返事をすると、髪の毛から手を離した。

えっ、それだけ…?

他に何か言うことがあるんじゃないだろうかと思ったけれど、
「早く桃を食べるぞ。

ほったらかしにすると悪くなる」

宮本さんはキッチンへと足を向かわせた。

「あ、はい…」

私は返事をすることしかできなかった。

いくら何でも、これは呆気なさ過ぎます…。
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