今宵の月のように
いきなり頭を下げてきた彼を、私はどうしろと言うのだろうか?

「――頭をあげてください…。

いきなり謝られて、頭を下げられても、わからないです…」

呟くように言った私の声が聞こえたと言うように、宮本さんは下げていた頭をあげた。

「こより」

宮本さんが私の名前を呼んだ。

彼が名前を呼んだのは初めてだったので、どうしていいかわからなくて戸惑った。

「座ってくれないか?」

そう言った宮本さんに、私は腰を下ろした。

宮本さんはベランダを出ると、私の前であぐらをかいた。

「さっきも言った通り、どうしても果たさないといけないことがある。

だから今は言えないし、何も教えることはできない」

「…さっきも、聞きました」

そう言った私の声は、弱かった。
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