今宵の月のように
「だけど、全てが終わったその時」

宮本さんはそこで言葉を区切ると、私の顔をじっと見つめてきた。

「――その時は、俺に“おかえり”と言って迎えて欲しい」

「えっ…?」

宮本さんはフッと口元をゆるめて笑うと、
「俺、生まれた時からずっと1人だったんだよ」

そう言って、長い前髪をかきあげた。

「1人って…両親がいなかったって言うことですか?」

そう聞いた私に、
「物心がついた時には施設にいて、俺を産んでくれた両親の顔を見たことがなかったんだ。

施設の園長曰く、俺はへその緒がつけられた状態で赤ちゃんポストに入れられていたらしい」

宮本さんが答えた。

「そうなんですか…?」

「だから、帰ってきた時に“ただいま”と言っても“おかえり”と返事をしてくれる人がいなかった。

この年齢になるまで何も知らなかったんだ」

宮本さんはまたそこで言葉を区切ると、
「“おかえり”と返事をしてくれることが、こんなにも嬉しいんだって言うことを」
と、言った。
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