今宵の月のように
ゆるくウェーブがかかった長めの黒髪に、長い前髪から奥二重の切れ長の目が私を見ていた。

顔立ちは端正と言うよりも精悍で、これ以上見ていたらどこかへ連れて行かれてしまいそうだと思った。

「で」

「で?」

テナーの声が言ってきたので、私は聞き返した。

「早く君の家に案内してくれないかな?

もうそろそろで警察がくるのも時間の問題だと思うんだ」

半ば脅されるような形で言われて、
「あ、はい、こちらです…」

私は彼を目の前のマンションへと連れて行った。

2階の東側にある角部屋が、私が1人暮らしをしている家だ。

「ど、どうぞ…」

鍵を使ってドアを開けると、彼は滑り込むようにして家の中に入った。

私も後から家の中に足を踏み入れると、電気をつけた。
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