今宵の月のように
「――宮本さん!」

そう叫んだ自分の声に驚いて飛び起きた。

「えっ、何?」

すぐに聞こえてきたその声に視線を向けると、宮本さんがベランダに立っていた。

「あっ…お帰りなさい」

呟くように言った私に、
「ただいま」

宮本さんは返事をした。

私はソファーから降りると、彼がいるベランダに歩み寄った。

ソファーのうえで寝ていたせいか、躰が痛かった。

ベランダに出ると、もう夜になっていた。

真っ黒な空には銀色の三日月が浮かんでいた。

「早いな」

この間は新月で何も見えなかったのに、今日は三日月である。

時間と言うものは本当に早いものである。

「そうだな、夏も終わりだな」

同じように三日月を見ながら、宮本さんが言った。
< 76 / 105 >

この作品をシェア

pagetop