再会チョコレート
有名ショコラティエの店のチョコはすでに売り切れていたので、コンビニの余り物しか買えなかった。
「こんなのしか買えなくてごめん。でも急だったし」
「何でもいいよ。凛がくれるなら」
大量生産だと分かるチョコ。近場の公園のベンチに並んで腰を下ろすと、カイはさっそく包みを開け満足げにそれを口にした。
日も暮れ、常夜灯の白と木々の緑だけが私達の視界を満たす。時々ランニングや犬の散歩をする人が通りすぎていった。
「どうしてこっちの高校に編入してきたの?」
「最初は父さんに猛反対されたけどねばった。最終的に、1年間今の学校で頑張ったらこっちの高校に編入していいって言ってくれて。来年から一人暮らしする予定。凛に会いたかった。ずっと」
カイの指先がそっと私の頬をかすめる。冬の空気にさらされ冷たい指先。甘くてほろ苦いチョコレートの匂いがした。
「昔言ってたこと訂正する」
「え?」
「チョコ食べないと死ぬってやつ。凛のチョコ食べないと死ぬが正解」
それって、私を好きだという意味?
「だったらどうして一度も会いに来なかったの?」
「行きたかったよ。でも行けるわけないだろ。気持ち悪がられたくなかったし……。それに、好きな子から毎年毎年義理ってハッキリ言われながらバレンタインチョコもらう思春期男子の気持ちなんて絶対凛には分からないだろ」
分かってた。遠い場所から時間をかけて会いに来てほしかったのは私の方だった。引っ越し先まで訪ねていってカイに嫌な顔をされるのがこわかった。そんな気持ちを、ユリには全て見透かされていたんだ。
「分かってたよ」
「なら、もっと分かってよ。凛のことも教えてほしい」
鼓動が速くなる。
カイの唇が柔らかく頬に触れ、冷たい肌に熱が広がる。さっきより強くチョコの香りがした。
《完》