クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
確かに葛城さんの指摘通り、私と関わった男性はあまりいい人とは言えなかった。5つでお母さんに死に別れてから家族や親戚がいなかったからか、いろいろと大変な目にも遭ってきた。でも、その方たちも違う人から見れば評価が変わる。私の一方的な感情や好き嫌いを言葉にするのはあまりしたくなかった。
「……あの……私」
「無理に喋らなくてもいい。きっと君からは他人への辛辣な言葉など出ないだろうからな」
「は……はあ」
パチャン、と水音が立ちお湯が揺れる。広がる波紋が彼が身体を震わせ笑っているからだ、と気づいた時にはバスルーム全体に笑い声が響き渡った。
「くくくっ……面白い。これだけ悪意のない単純なお人好しは初めてだ」
笑われている、と判って瞬間的に頭に血が昇る。褒められていないということはなんとなく理解出来たから。
「わ、笑うことないじゃないですか! わ、私だって好きでこうなった訳じゃ」
肩を怒らせて声を張り上げたのに、どうしてか葛城さんはより一層大きな声で笑う。悔しくなって、体ごと振り向いて彼を睨み付けた。
「し、失礼です! 私、なんにも面白いことなんてしてませんよ!」
「ぶっ……ククク……それ、本気で言ってるのか? だとしたら余計におかし……っ」
「もう、笑わないで! やめてくださいよ!」
抗議の意味で彼の胸を拳で軽く叩く。「すまない」とまったく誠意のない謝罪をされ、私は頬を膨らませて涙目で彼を睨み付けるしかなかった。