クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「もう……いい、です」
ぽつり、とこぼした言葉は小さく呟いたのに、やけに大きく聞こえた。
「あなたは……ちゃんと私を見てくれない。それがわかりました……だから。私は……来月になったら出ていきます……来週は不動産屋に……いきますから」
「………」
「遊園地も映画も、きちんと調べておきます……ですから……あなたは……他のひとを誘ってください」
私がそう告げると、ピクリと揺れた葛城さんの指から徐々に力が抜ける。緩んだ手から指を抜けば、あっさりと解放された。
さっきまで熱いくらいのぬくもりを感じたのに……離れた途端に冬の空気にさらされた手はあっという間に冷えて。彼の温かさをもう感じることはないんだなぁ……と。また涙が出た。
「仕事に役立つために一生懸命勉強します。あなたの役に立ちたいので……でも。私はもう、それだけでいいです。
あなたにとって仕事のパートナー……それだけで」
私がそう話すと、ずっと黙っていた葛城さんから
「……わかった」
とはっきりした返事が聞こえた。
「おまえの好きにしろ。ただし、おれも好きにさせてもらう」
ああ、やっぱり葛城さんにとって私との時間はあっさり捨てられるほどで、さほど大切ではなかったんだ。……そんな現実を突き付けられて、また悲しみが募る。
だけど、せっかく彼との唯一のお出かけという時間を無駄にしたくなくて、無理に笑顔を作った。
「ほら、早く食べちゃいましょう! まだまだ観たい動物はたくさんいますから。時間がもったいないですよ」
無理やり詰め込んだチキンサンドは、ほんの少しだけ、しょっぱかった。