クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~





急いては事を仕損じる……と、昔ながらの格言が言うとおり。葛城さんのトラウマは生まれてからずっと続いてきたもの。彼自身ようやく変えよう、と前向きになれたばかり。


あのユウキさんも、葛城さんが名付けた言葉について言ってた。


“ああ、イタリア語なんだけど……当時悩んでた彼がある願いを込めて付けたのを知ってる。きっと一番欲しかった……というか言いたかった言葉なんだよ
……智基が誰かを連れてくるのはマジで初めてなんだ。だから、その意味をこのTi Amoって名前から考えてみて”


きっと、それは。愛情を意味する言葉……と、今ならばはっきりと理解できる。


“愛したい”“愛されたい”――そんな葛城さんの悲痛な願いがあったんだ。


なのに……私は。そんな彼の気持ちを知らずに、答えを返してくれないとひとりで性急に結論を出そうとしていた。なんて身勝手な考えだったんだろう。


私が要求したことは、歩き始めたばかりの幼子に運動会で1位を取れなんて無茶を言うようなもの。


きっと、彼は方法がわからずに戸惑っているんだ。


なら……私は、彼の手を引けばいい。ゆっくりと焦らずに時間をかけて、確実に自信が持てる様になるまで。


「……葛城さん、焦らないでください。私がいますから……ゆっくり、ゆっくり。変えていきましょう……私もあなたと一緒に変わりたい。だから……同じです、私たちは」


今は、それだけでいい……。


ようやく私は、ペットではなく人間として。彼に必要とされそばにいていいのだ、と理解することが出来たから。


今はまだ、私たちの新しい関係はようやく始まったばかり……。



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