クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
ようやく仕事に区切りが着いた私は、ふうっと息を吐いて時計を見る。既に夜の9時半……。加藤さんが差し入れしてくれなかったらお腹が空いていたな、ともう一度ため息をついた。
給料が入ったらちゃんとお金を払おう、と思いながら立ち上がる。背中が強張って肩もお尻も痛い。軽く揉みほぐしつつ何気なく見ると、やっぱり葛城課長はまだ液晶ディスプレイとにらめっこしてた。
営業事務課のフロアに他の社員さんの姿はない。それでもしばらく気をつけてから、葛城課長に近づいて声をかけた。
「すみません、仕上げた分の確認をお願いします」
印刷した書類を机に置くと、「ああ」と手に取って直ぐにチェックが始まる。慣れた指さばきで書類を捲る音だけが静かなフロアに響く。
「いいだろう。これをメールで送った後はもう帰りなさい」
パサッと無造作に書類を放った後、葛城課長は淡々と言う。
「あ、はい……でも、あの……か、課長は?」
“課長は、いつ帰られるんですか?”
そう言いかけた私の言葉を、葛城課長は鋭い視線で制してきた。
「……職場ではプライベートに関して口にするな」
「……はい。すみません、気をつけます」
「この際だから言っておくが、一緒に暮らす相手だからと言って私は特別扱いなどしない。役に立たないと判断したら、即刻辞表を書いてもらう。解ったか」
「はい」
それに関しては当然だと考えたから、しっかり頷いた。私の返事を確認した彼は、「もう帰りなさい」とだけ告げて液晶ディスプレイに視線を戻す。
「すみません、お先に失礼します」
「ああ」
新人が上司より先に帰るのは申し訳ないとは感じるけど、自分が手伝えるとは思えないから挨拶をして営業事務課のフロアを後にした。