クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
本社ビルの正面玄関から出た私は、見たことがあるひとがこちらへ向かって歩いてくるのに気付いた。
「あ、こんばんは」
「こんばんは、加納さん。こんな夜遅くまで仕事? 大変なのに休んじゃってごめんなさいね」
ペコリと頭を下げた私に優しい言葉を掛けてくれたのは、先輩であり私の教育を担当する人でもある、三辺 結花(みなべ ゆか)さん。
栗色の髪をフワリと巻いてビジネスなのにあくまでも女性らしい明るいメイクをした顔はとても綺麗で、身長もきっと私より十センチは高い。仕事を一緒にしたのは最初の3日くらいだったけれど、課長が居ない時間をテキパキと采配できるやり手でもあった。
“私の後任ということで引き継ぎが主になるけれど、あまり時間がなくてごめんなさいね”
三辺さんは急な事情で今月いっぱいで退職するらしく、急いで後任を捜し採用されたのが私ということ。有能な彼女の後と言うことで、期待に応えられるかまだわからないけれど、精一杯頑張ろうと思う。
「こんなに夜遅くまで残ってるなんて、加納さんは頑張り屋さんね」
はい、と手にしたトートバッグから出したものを渡される。
「いえ、私はまだまだです……これは?」
渡されたものはプラスチックの使い捨て容器に入ったなにか。
「おにぎりとサンドイッチよ。お腹が空いたでしょう、よかったら食べてね」
ニコッと笑った三辺さんは本当に綺麗で、そのまま彼女が見上げた先は……ビルの二十階辺り。
「智基、きっとまだ残業してるでしょうね。お夜食に作ってきたの」