クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



結婚、という単語を聞いて軽いショックを受けたのはなぜだろう?


三辺さんは葛城課長を名前呼びして夜食を手作りしてた。あれだけ阿吽の呼吸で仕事ができる二人……もしかしなくても結婚相手は。


11月末に結婚退職するなら、きっと三辺さんはその後から葛城さんと一緒にあのメゾネットアパートに住むはず。

一人暮らしにしては広く部屋も多かった理由が今やっと判った。彼女と結婚した後は一緒に住んで家族を作るためだったんだ。


(それなら……私はアパートから出てかなきゃ……)


そう思うのに時間はかからなくて、次はどうしようと頭を悩ませることに。


だから、気づかなかった。営業一課の男性社員がいつの間にか隣に座っていたことに。


「ね、加納さんだっけ? 飲んでる?」

「あ、はい。いただいてます」


最初に注がれたビールを一口口にしただけで、あまりの苦さにすぐオレンジジュースに換えた。


「な~に、オレンジジュースなんて無粋だよ、無粋! ほら、きっとこれならイケるよ」


その社員さんが差し出してきた淡いピンク色の中味が入ったグラスを受け取る。ちびりと口にすれば、フワリと桃の味がしておいしかった。


「おいしいです」

「よかった! さ、飲んで飲んで。主役がだんまりじゃつまらないから話しよ!」


明るいノリと屈託ない笑顔が加藤さんと似てて、自然と頷いてた。

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