クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「どこの学校を出たか、はあくまでもひとつの目安でしかない。肝心なのは本人の資質と能力と努力だ」
気まずく重くなりつつあった空気を払うように、凛とした声がすぐそばで聞こえた。
「か、葛城課長!」
先輩が慌てた様子で呼んだのは、まったく予想もしなかったひとの名前。釣られて顔を上げれば、いつの間にかななめ向かいに葛城課長が座ってた。
厳しいと評判の上司の目があるからか、先輩はパタパタと軽く手を振る。
「いやです、課長。単なる世間話ですって! 別に加納さんをバカにしたりするつもりはこれっぽっちもありませんよ。ねえ……って! アイツ逃げやがった」
私に最初に話しかけてきた営業課の男性は姿を消していて、先輩がしどろもどろで言い訳を繰り返してる。
「この場で叱るつもりはない。今後注意だけしてくれればいい」
葛城課長からあっさりとお許しが出たからか、先輩は目を見開いて驚いてた。
「え、課長。どうかされました? いつもだったら五分くらいお説教が続くのに」
うわぁ、と私は思わず頭を抱えたくなった。一番手厳しくお堅いと評判の葛城課長に、先輩はなんて命知らずな発言を。
案の定葛城課長の眉間には見る間にシワが増えてく。なのに先輩は平然としてた。
「……このような場を盛り下げるような真似はしない。時と場くらいは弁えている」
「ですよね! だって三辺さんの送別会ですから。流石の課長もぶち壊す真似はしませんよね」
開き直ったのかなんなのか、先輩はグラス片手に大口で笑う。なんか……流行りのメイクと髪型をした見た目に反して、豪快なひとだ。