クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「……わかっている」
あれ、と葛城課長の言い方に引っかかった。
いつもは迷いなく発言するのに、口を開いてから一瞬の間があったように感じた。先輩の問いかけへの返事に躊躇した?
気になって葛城課長の表情を窺ってみるけれど、厳しい顔つきはなりを潜めて無表情に変わってた。それこそ何の感情も感じさせないような能面に。
黙々とビールを飲む課長のグラスは直ぐに空になったから、先輩がさっとビール瓶を手にそこにビールを注ぐ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
どうやら上司にビールを注ぐのは部下の役割らしくて、一番下っ端なのに先輩に気を遣わせてしまった。次は自分がやろうと反省しながらも、どうも葛城課長の様子が気になって仕方ない。
(どうして? 三辺さんと結婚するのは葛城課長じゃないの?)
最愛の人と結婚出来るなら、しあわせの絶頂のはずなのに。葛城課長からはそんな空気を一切感じない。どういうことなんだろう? もしかして同じ仕事が出来なくなって寂しいのかな? なんて想像してみるけれど。
それは、先輩の次のひと言であっけなく散らされた。
「にしても三辺さんもやりますね! 御曹司とできちゃった婚なんて。桜井さんは次期社長候補ですもん。いずれ社長夫人ってわけですね~うらやましい! アタシもあやかりたいですよ」
(――え?)
私が信じられない思いで葛城課長を見ると。
彼は……
ほんの一瞬、三辺さんに目を向けたのだけど。
その瞳に浮かんだのは――
痛ましいけれど、とてもあたたかくて熱い――甘さを孕んだ包み込むような感情だった。