クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
(葛城さんは……三辺さんと結婚するんじゃなかったんだ)
だけど、どうして。三辺さんはわざわざ上司に差し入れを持っていくの? 名前呼びもしていたし、特別な仲だと誤解するには十分な態度だったのに。
なのに、実際に三辺さんは次期社長候補の桜井さんと結婚する。しかもお腹には既に赤ちゃんがいて……。
葛城さんだって。三辺さんを見た目は……あれは。
恋愛経験がない私ですら判った。
最愛のひとを見つめる瞳だった、と。
それを思い出した刹那。ツキン、と胸の辺りが痛んで思わずそこを手のひらで押さえる。
落とした視線に映るのは、ゆっくり増えていくグラスの水。波打つ水面をぼんやり見ていると、なぜだか涙がこぼれ落ちそうになり、空いた手の甲で目元を拭う。
ぽちゃり、とミネラルウォーターの雫が落ちてゆっくりと広がった波紋が消えゆく時。しっかりしろ! と自分を叱りつけた。
もしかしたら、葛城さんは三辺さんに裏切られたのかもしれない。不意にそんな考えが浮かんで余計に胸が痛んだ。
(一番辛いのは葛城さんなんだ。私は……部下でただのペット。こんな時くらい役に立たないと!)
ごしごしと顔を強く拭った後一人で頷いた私は、グラスを載せたトレイを手にソファに戻った。