クールな課長とペットの私～ヒミツの同棲生活～

November～委ねる

あ、葛城さんって意外とまつげが長いんだ……なんてぼんやりと考えた私は、相当な鈍さだったと思う。


すぐ目の前に彼の端整な顔があって、触れてきた唇と手のひらのあたたかさに。どうしてかこの人が生きてるという実感が湧いてきて、何度か瞬きした後にぽろりと涙が一粒頬を伝う。


涙が落ちた痕が冷えて、ひんやりとした感触にハッと我に返った。そして躊躇いながら伸ばした手で、こわごわと葛城さんの頬に指先で触れてみる。当たり前だけど、彼の頬はあたたかくて。ホッと安堵の息を吐いた。


「よかった……」

「……なにがだ？」


まっすぐに向けてきた葛城さんの双眼が、怪訝そうに細められる。先ほどの刺々しい空気は僅かに和らげられて、ただ単に疑問を投げ掛けてきた様に見えた。だから、私も素直に答える。


「……私のお母さんのことを思い出したんです」

「……」


急にこんな話をしておかしくないかな？ とは思うけど。なぜだか、この人には知っていて欲しいと自然と口が動いてた。


「私のお母さん……一人で私を育ててくれたんです。いわゆるシングルマザーで……私が５つになるまで二人きりで暮らしていたんですけど。ある日すごくしあわせそうに笑うようになったんです。その理由が……大切なひとができたからでした」