クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~

葛城さんはただ、黙って聞いてくれてる。

それだから、私はそのまま話を続けた。


「母が嬉しいと私も嬉しかったし、母がしあわせだと私もしあわせでした。
でも……ある日突然、母が笑わなくなったんです。
いえ、私には笑いかけてくれるんですけど……無理して笑っているような。そんな感じだったんです」


そして、知ってしまった。母が人知れず涙を流す姿を。


あまり気丈と言えない母だったけれど、私の前ではいつもいつも大丈夫と笑ってくれた。本当に何もないと安心させたいかのように。


「……けど、そんな母に限界が来たんでしょうね。ある日……母は……何でもない日に川に流れてしまったんです」


ただ、散歩に行くとひと言言い残した日曜日の午後。お昼が終わってから、おやつのホットケーキを二人でたくさん焼いて、珍しくホイップクリームや果物で飾って。二人では食べきれない量を冷蔵庫に入れた母は、牛乳を買うと雨の中で散歩がてら近所のスーパーに向かったはずなのに。


帰ってきたのは翌日の夜で。物言わぬ冷たい体で。ただひと言……橋から落ちた事故ということを聞いた。


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