クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
11月下旬。三辺さんの退職まであと1週間を切った。
あれから彼女は毎日私にマンツーマンで指導してくれる。引き継ぎが1ヶ月は長いか短いかよくわからないけれど、彼女は短い言葉でわかりやすく伝えてくれるから、頭の回転と記憶力が鈍い私でも何とかついていけてた。
「……よし、できた」
三辺さんから任された書類を仕上げ、まず印刷してからいつものように課長の元に向かう。相変わらず気難しい顔をした葛城課長に、「すみません、今よろしいですか?」と声を掛ける。
すると課長は一度声を出そうとしたらしいけれど、すぐに口をつぐんで数度咳払いをする。それから、もう一度私に答えた。
「なんだ?」
「……あの、定例会議に提出する稟議書のチェックをお願いします」
気になった事があって一瞬間が空いてしまったけれど、彼の声を聞いて慌てて書類を差し出した。
「ああ」
短い返事で書類を受け取った葛城課長は、すぐにそれに目を通し始める。慣れた手つきでパラパラと捲るスピードは本当に読んでるのかと疑いたくなるけど、あれでしっかりと隅から隅までチェックしているから驚き。
案の定、30秒と掛からずに5枚の書類を捲り終えた彼は、手にした紙の束を机に置いた。
「用途に関する項目と費用効果が不明瞭だな。これではその物品を導入する以前の問題だ。提案者の話をもっとはっきり訊いて纏め直すんだ」
「は、はい」
突き返された書類を手にして、またやり直しかとため息をつきそうになって慌てて飲み込む。けれど、それより気になったのが葛城課長の様子。なんとなくいつもと違う? と思って彼を見ていたら、「早く昼休みに入りなさい。それは午後イチで処理すればいい」と追い出されてしまった。