クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「はい」
「え?」
青色のトートバッグが目の前に差し出された、と理解する前に思わず受け取ってしまっていた。
「智基……課長に届けてあげてくれる?」
三辺さんは私にそう告げてにっこり笑う。彼女の綺麗な笑顔に何度か目を瞬いて、それから弾かれたようにベンチから立ち上がった。
「え、あの……私、ですか? どうして……」
「上司は部下の体調管理も役割だけど、なら逆に部下が上司の健康を気遣っても不思議ではないんじゃないかしら?」
「……は、はあ」
何だか屁理屈を捏ねてるだけの様にも思えるけど、確かに私は葛城課長の体調が気になってる。これをきっかけに、彼に話しかけられたら……と、内心で決意をした。
私から渡したものでも、三辺さんからなら、きっと手を出すに違いない。それくらいは私にも判る。
葛城課長にとってはそれが「何か」ではなくて、「誰からのものか」が重要に違いない。
(あ……)
そういえば、加藤さんに渡したボックス以外に、私は一切れだけカツサンドを手に持ってた。
一切れずつラップに包んでるから、不衛生じゃないと思う。食べ残しみたいで申し訳ないけど、葛城さんにはきちんと栄養を摂って欲しいという思いが強くて。ラップに包まれたカツサンドをそっとトートバッグに入れる。
富永先輩が三辺さんにエリートを紹介してください! と鼻息荒く詰め寄るのを横目で見ながら、小走りで営業事務課のフロアへ向かった。