クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
お昼休憩はあと15分しかない。
急いで営業事務課に戻ると、相変わらず葛城課長は黙々と仕事をこなしてた。
仕事に夢中になっているのか、画面を睨み付けて。時折そばにある書類やファイルを捲る。額に手を置いては、疲れたようにため息をついてる。
そして、気のせいじゃない。たまにケホリと小さな咳をするのは。
(喉を痛めているの?)
そういえばのど飴があったはずだ、と思い出した私は自分の机に寄るべく足を踏み出せば。急に後ろから声をかけられた。
「加納、今はまだ昼休みだろう?」
「あ……はい。で、でも……」
引き出しからのど飴を取り出すと、さっと袋に入れてからちょっとだけ躊躇。けれど、三辺さんに託されたトートバッグの重みを思い出し、任されたならきちんと役目を果たさないと、と課長の席へ向かう。
険しい眼差しは、震える手で恐々トートバッグを置いたことで怪訝なものへと変わる。必死に勇気をかき集めた私は、「三辺さんからです」とだけ告げて、ササッとフロアを飛び出した。
怖かった。
私の余計な気遣いがまた否定されるのを見るのも。
私がいくら頑張っても、三辺さんの十分の一も受け取ってもらえない現実を見せつけられるのも。
ロッカールームに逃げ込んだ私は、荒い呼吸を沈めようと胸元に手を置く。ロッカーに背中を預け、薄暗い中にいると不意にあの日のことを思い出した。
――お母さんの写真を葛城さんの部屋で見つけてしまった時のことを。
(どうして……葛城さんはお母さんを? お母さんを知ってたから私を拾ったの?)
意気地無しな私は、真実を知るのが怖くて彼には何一つ訊けないままだった。