ハル

高校生活が始まって約1週間、
僕は高校にも随分慣れ、
学校までの通学手段を、
いわゆる”チャリ通”に変えた。
僕の家から学校まで自転車なら25分くらい。
近くもなく、遠くもなく、といった感じだ。
家を出て、母校である中学校をとおりすぎ、
トンネルをくぐり、坂をのぼる。
その先に僕の高校はあった。
坂の傾斜が急で、慣れるまでは
息を切らしてしまいそうだ。
そんな道を通りながら僕は学校へ向かう。

自転車を学校の駐輪場にとめたそのとき、
後ろから声をかけられた。
「京佑!」
まだ高校生活を1週間しか共に過ごしていない
友人の声を聞き分けられるはずもなかった。
思わず振り向くとそこには渉がいた。
「お、おは…」
「あのさ!部活、何入るか決めた?まだ決めて
なかったら今日見に行かない?部活見学!」
そうか、高校生活の軸になると言っても過言では
ない部活を、僕はまだ悩んですらいなかった。
「おう、見に行こう。」
特にこの部活には入りたいといった希望は
なかったが、とりあえず見てみることにした。
じゃあな、と言って走って行った
渉の後ろ姿を見て、僕は何故か劣等感を抱いた。
高校生活に、もう慣れたようで、
先越されたようで、
何故か渉の思い通りに僕が動かされているような
気分になった。
今日はこんな気分に始まり、今日から始まる
高校の授業に臨んだ。

現文、数ⅠA、英表、生物…
どれもが中学で学んだことの延長線のような
内容である気がした。僕が想像するほど
頭を悩ます問題はなかった。
僕はこのまま高校卒業まで勉強面において
苦労することは決してなかった。
授業中に振り向けば、後ろで渉が寝ていた。
最初から堂々と寝る度胸に心の中で拍手を
送りながら嘲笑した。
今日も舞子の髪は、僕の目の前でなびいている。
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