氷の華
掃除が出来てないからと、静かにドアを開けたつもりだったのに、降り積もった埃が店内に舞ったのが分かった。


ドアに付いた来客を知らせる鈴の音も、乾いていて儚げに感じる。


埃っぽい中に漂う、微かな鈴蘭の香り。


その香りは、カウンターの上に置かれた、コルクの蓋を外されたガラス製の小瓶から漂ってくる。


これを取りに、此処に来たんだ。


見渡してみても、昨日の出勤前に緊張を解そうと此処に寄った時と、何も変わってない。


ブーツが床を叩く音が、静かな店内に響き渡る。


コルクの蓋を閉めていると、カウンターの奥に並んでいるボトル達が視界に入った。


キープされたままになっているボトル達を見る度に、私はこれを寂しげな墓標のようだと思ってしまう。
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