氷の華
「蘭さん、此処は一体…。」


車のヘッドライトを背に浴びた柿沢店長が、開けっ放しだったドアの所に佇んでいた。


「私のママが、やっていたお店なんです。」


カウンターの前に並んでいる止まり木の中で、来る度に私が座っている真ん中のものだけ、埃が積もっていない。


其処に腰掛け、ママの姿を探すようにゆっくりと見渡してみる。


壁際に並ぶボックス席の一番端のソファは、小さかった頃の私が眠ると、よくベット代わりになったものだ。


ママの帰りをアパートで一人で待つよりも、お客さん達に可愛がられながら此処に居た方が楽しかった。


お客さん一人一人が、ママを奪い合うように話しかけていた。


その光景を眺めながら、私のママは人気者だと幼心に思っていた記憶がある。
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