氷の華
お客さん一人一人に優しく微笑みかけながら、話しに聞き入るママの姿。


大きくなったら私もママのようになりたいと、密かに思っていた。


週末に休みなんて取れるはずも無く、小さい頃から何処にも遊びには連れて行って貰えなかった。


ママは私にごめんねと言ってくれていたけど、それを私が不満に思った事は一度も無い。


お店では一生懸命に働き、アパートに帰れば必死に私を育ててくれているママの姿を、私が一番近くで見ていたから、そんな風に思った事は一度も無かったんだ。


中学校に入る前までは、そんな日々が何時までも続くと信じて疑わなかった。


「もしかして、蘭さんはこのお店の為に借金を?」


ヘッドライトで背中を照らされ、シルエットとなった柿沢店長に向かって、私はゆっくりと頷いた。


ママ…明日から忙しくなりそうだから、この香りは借りていくね。
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