氷の華
「何をお飲みになられます?」


「いや、オーダーより奴の来る方が早かったらしい。」


先ほどの長身のボーイを後ろに連れ、田辺は俺を睨むようにして此方に向かってくる。


シングルのスーツに、天然パーマを短めに切り揃えた髪型も昔と変わりはなかったが、眼鏡のフレームは銀縁に変えたらしい。


「花束は気に入ってくれたか?オープンは祝ってやれそうもないからな、その代わりにとっておいてくれ。」


開口一番でそう言うと、田辺は向かいのソファに腰を下ろした。


「センスの無い花束を選ぶあたりは、黒谷の下に居ると似てくるらしいな。」


俺と田辺のやりとりを、長身のボーイは苦しそうに唾液を飲み下しながら見つめている。
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