氷の華
「夜の世界を毛嫌いしていた昔のお前が、今の姿を見たらなんて言うだろうな。」


背中に張り付いた田辺の悪足掻きに、ドアに向かっていた足を止めて振り返った。


「過去を語るのは、過去に囚われている人間だ。」


再び歩き出した俺を見て、先ほど店先に立っていた若いボーイが慌ててドアを開いた。


身を切るような寒風が吹く中、星の煌めく夜空を仰いだ。


あの頃の俺と対面したら、軽蔑した眼差しを受けるだろう。


それ自体は何とも思わない。


良くも悪くも、人間とは変わっていくものだ。
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