氷の華
「顔見せぐらいでそんなに緊張しないで、もっと気楽に行きなさいよ。」


そんな緊張している私を気遣ってくれる、恋さんの声が嬉しかった。


「はい、じゃあ行ってきます。」


恋さんに出来る限りの笑顔を見せ、私は待機用のテーブルから八番テーブルへと向かった。



八番テーブルが近付いてくると、三十代も後半と見えるサラリーマンが一人で座っていた。


自然な笑顔を意識していると、通路の向こう側から柿沢店長が歩いてきた。


「キャバクラは慣れているようなお客様なので、肩の力を抜いて自然体で大丈夫ですよ。」


それはすれ違う一瞬だけで、周りのお客様は疎か、接客中のキャストにも聞こえない小声だったけれど、私の耳にはしっかりと届いて肩の力を連れ去ってくれた。
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