氷の華
「いえ、なんでもありません。お疲れさまです、社長。」


再び立ち上がり、氷藤社長に頭を下げた柿沢店長は、それ以上の事を言おうとはしなかった。


氷藤社長は、そんな柿沢店長の姿と散乱したグラスの破片、そして私と柴山マネージャーへと視線を流浪させた。


それはまるで、この場に起こった事を逆再生しているように感じる瞳の動きだった。


「柿沢、誰も出迎えに出ないとは良い教育をしてるな。」


「すいませんでした。」


この状況を見れば大凡でも見当が付くはずなのに、身を硬くしている上にそれ以上の氷の矢が突き刺さっちゃうなんて、頭を下げ続けてる柿沢店長が可哀相だよ…。


氷藤社長はそれ以上何も言わず、社長室へと歩いていった。
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