氷の華
─何かしらの感情があるとしか思えないわ──


口に運ぼうとしていたグラスを宙で止め、虚空を見つめるように焦点をぼやかした。


客がキャバクラという場所に求めるのは、普段の生活では味わえない新鮮さ。


言い例えるなら、莉沙のイメージは気品高い薔薇。


新鮮さを求める客は、その現実離れした莉沙の容姿に、接客に心を奪われるだろう。


一方の蘭は、付けている香水どおり、儚げで可憐な鈴蘭のイメージ。


客ならば莉沙に足が向くのだろうが、何故俺は迷う事無く借金の肩代わりを考えたのだろうか。


黒く染まってしまった心に、汚れのない自然な白を求めたのか、それとも思い出したくない鈴蘭の香りに惑わされたか…。


もしくはその両方か…。


焦点をコンクリートの壁に戻し、全てはもう過ぎ去った過去の事と、宙で止めていたグラスの中身を一気に煽った。
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表紙・目次

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