氷の華
俺の言葉に振り返った愛子は、紅潮させた夜叉の形相だった。


「二人共入れ。」


愛子の去り行く姿を、同情の眼差しで見つめていた柴山が、柿沢を連れてデスクの前へとやってくる。


パッケージから引き抜き、口にくわえたマルボロに、ライターを持った柿沢の手が伸びてくる。


口に含んだ煙を吐くと、一固まりの雲となって天井に向かって上っていった。


「柿沢を呼んできてくれたか、ご苦労だったな。これでお前の店長としての仕事は終了だ。」


突然の事に意味が分からず、柴山は小さな瞳の中で黒目を泳がせていた。


「えっ…?」
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