氷の華
脳の回転する音だけが聞こえそうな静かな社長室に、電子音が鳴り響く前の点滅が視界の端に入った。


目でそれを見ながら、マルボロのパッケージへ手を伸ばした。


穂先に火を翳した後で、コードレスホンに手を伸ばす柿沢の動きを止め、煙を吐き出しながら手を払った。


一礼して社長室を去っていく柿沢の背中を見ながら、コードレスホンに手を伸ばす。


左手に持ったソレは、先ほどの換気で冷たくなっていた。


「私だ。」


酒で潰れ掠れた声に、昔感じていた大きさは無くなっていた。


「それだけでは誰だか分かりませんね。何せこうやって話すのは、凡そ二十年ぶりほどになりますから。」
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