氷の華
今の黒谷なら、最後に残されたその打算も、田辺にすら分かってしまうだろう。


だが、黒谷は長年使えてきた従順な田辺ではなく、裏切った俺を選んだ。


[黒谷カンパニー]で繰り広げられている、老弧と狸の裏切り合い。


黒谷が考えているであろう選ぶという言葉も合わせ、呆れを通り越して哀れでしかなかった。


「過去を水に流そうと提案した私に、その態度か。」


僅かに残っていた黒谷のプライドをせき止めていた壁が、悲鳴を上げているようにも聞こえる声だった。


「ウチの力を借り、一時的にでもこの街のトップに立とうとする、薄汚い打算が見え見えですからね。」


なんとか隠そうとしていた核心を突かれ、黒谷の杖を握る手に力が込められたのが分かった。
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