氷の華
引き抜きの場合、キャストに対して相応の支度金を支払う。


その頃の莉沙は、元居た店でナンバー入りが確実視されていたキャストだった。


それだけでなく、遠くない将来にはナンバー1も十分狙える存在。


支度金を差し出した俺に対し、莉沙は素直に頷きはしなかった。


ナンバー入りが確実視され、遠くない将来はナンバー1も狙える存在なら、支度金の吊り上げ交渉も仕方ないと思っていた。


支度金が不足なら、それも払う気でいた俺に対し、莉沙の放った言葉は…


──社長の女にしてくれるなら、店を移っても良いですよ──


同業の中では、最大手に成りつつある社長の女。


支度金の吊り上げで金を得るのではなく、莉沙は移籍に納得出来る金と、他では得る事の出来ない優越感を手に入れた。
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