氷の華
俺の三十八回目の誕生日を莉沙に祝われた次の日、疑似恋愛に時間と金を注ぎ込む場所の前に立った。


その[ミルキィ]の扉には、CLOSEの札がぶら下がっている。


構わず扉を開いた瞬間に顔を出したのは、新しく店長になった柿沢だった。


「お疲れさまです、社長。」


ミーティング開始まで一分前の店内は、営業中の緊張感が欠けていた。


「愛子の代わりに入ったキャストを、あとで社長室に呼べ。」


「分かりました。」


深く頭を下げた柿沢の前を通り、俺の姿を見つけた順に挨拶が飛び交う中、足音を消す深紅の絨毯の上を歩きながら、社長室へと向かう。
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