氷の華
自分でも、強い口調になっているとは分かった。


氷藤社長の機嫌を損ねたら、間違いなくクビになるだろうと言う事も。


でも、そんな風に見えている自分を、一秒でも早く消し去りたという思いの方が強かったんだ。


「じゃあなんの借金だ?」


氷藤社長が煙草をくわえると、柿沢店長は音もなく私の隣から消えてしまった。


次の瞬間の柿沢店長は、銀色に輝くライターを煙草の前に翳していた。


吐き出された煙が宙を漂い、天井に持ち上がっていく。


「お母さんが、私に残してくれた借金です。」
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