氷の華
「残してくれた?」


私が社長室に入ってから、初めて氷藤社長の顔が動いた瞬間だった。


それまでの無表情から、疑念を凝縮させたような皺を、眉間に刻んでいる。


「はい。」


私の返事を最後に、再び社長室が静寂に包まれた。


窓にはブラインドが下がっているから、此処からじゃ外の様子は分からないけど、しんしんと降る雪の音まで聞こえてきそう。


氷藤社長が深く吸い込んだ煙草の煙を、静かに吐き出す音ですら、この空間では騒音に近く感じる。


「借金の額は幾らだ。」
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