氷の華
デスクの上に有るマルボロのパッケージから、一本を引き抜き口にくわえた。


冷静な自分を取り戻そうとする手段だった。


小気味良い金属音が室内に響き、柿沢から差し出されたライターの火に穂先を翳す。


立ち上る紫煙を、吐き出した紫煙で四散させた。


「柿沢、今日は早めに上がって、明日は蘭に付き添って借金を片付けてこい。」


「ウチが蘭の借金を被るんですか?」


柿沢には、将来は上に立つ者として、一人の従業員より経営を優先させろと教育してきた。


その教えに沿えば、蘭の借金をウチで被る事は、教えに反する事になる。
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